就業規則と雇用契約書はどちらが優先?未払い賃金との関係性
2020.06.21
こんにちは!社会保険労務士の大石です。
就業規則や雇用契約書の記載してあるお給料額等の内容が違っていることはありませんか?この場合どちらを優先すれば良いのだろう…と悩むことがあると思います。
正解は、原則、就業規則を優先するけれども、例外として雇用契約書を優先させる場合もあります!
分厚い本一冊でもまとめきれないほど奥が深い就業規則と雇用契約書に関してですが、わかりやすいよう簡単にまとめていきます。
就業規則と雇用契約書の位置づけ
就業規則や雇用契約書は会社と社員とのルールの内容についての記載をします。
就業規則は詳しいルールが書いてあるもので、雇用契約書は就業規則の中でも特に大事な部分を抜粋して作成していると考えるとわかりやすいかもしれません。
労働基準法等の法律を基準に作成をしていくので、労使で齟齬がある場合の優先順位としては、
法令>就業規則>雇用契約書
参考リンク
と考えていくのが一般的かつスムーズです。
原則の就業規則を優先させる場合
就業規則を優先させる場合については、労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)に根拠を求めることができます。
労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
例①
就業規則では昇給が有りとなっているにも関わらず、雇用契約書には昇給が無しとなっていた場合は就業規則が優先されます。
例②
他にも就業規則に、全ての社員に対して●●手当を支給すると記載してあるにも関わらず、雇用契約書に●●手当の記載が無い場合は、就業規則が優先され、●●手当を支払わなければなりません。
例②のように昔は●●手当を出していたけれども、今は出していない、のような実態と合っていない就業規則もよくあります。実態と就業規則を合わせておかないと思いもよらない所で未払い賃金を請求される可能性もあるので気を付けましょう!
例外の雇用契約書を優先させる場合
こちらは非常にシンプルな考え方で、就業規則以上の条件の記載がある場合です。
就業規則には◆◆手当を30,000円固定で支給すると記載があったとしても、雇用契約書に◆◆手当50,000円と記載をしてしまえば雇用契約書を優先します。
また、この例で雇用契約書に◆◆手当5,000円と記載してしまうと、就業規則に記載の金額とマイナス25,000円の差額が発生しているような状況です。この場合は25,000円分の未払い賃金を請求される可能性もあります。
実際に計算してみましょう!
・雇用契約書に記載の金額:◆◆手当5,000円
・1ヶ月平均所定労働日数20日
・1日所定労働時間8時間
・残業時間:10時間(便宜上毎月同じ時間残業したとします。)
・未払月数:36月
①◆◆手当の差額を計算してみます。
(30,000円-5,000円)×36月=900,000円
②◆◆手当の差額だけではなく残業代の計算もあります…
まずは差額分の残業単価を計算します。
(30,000円-5,000円)×1.25÷20日÷8時間=195.31円
次に、残業時間数と未払月数を残業単価に掛けます。
195.31円×10時間×36月=70,311円(小数点以下切り捨て)
③これを合計すると…
900,000円+70,311円=970,311円
非常に恐ろしいですよね。
3年間で約100万円の未払い賃金が発生していることがわかりました。
10人いれば会社は1,000万円程度の未払い賃金リスクが有り、実際に請求されると資金繰りに影響を及ぼすばかりか、会社をたたまないといけない状況に陥る可能性もあります。
まとめ
原則は就業規則を優先しますが、場合によっては雇用契約書を優先させます。
どちらを優先させるかは、社員にとって有利な条件を優先させると考えるとわかりやすいです。
上記でも計算をしたように、未払い賃金の面でかなり大きなインパクトがあります。
上記の計算式で使った未払月数36月とした根拠は2020年4月に行われた法改正です。
https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf
これは今後5年に変更される予定です。5年に変更された場合は1人100万円では済まないことがわかります…それほどインパクトが大きな法改正です。
実務的には、雇用契約書は社員の入社や契約内容の変更のタイミングで交わすものなので、常に会社の実態に合っていることが多いですが、就業規則が昔のままの状態のものが多いです。既に社員を雇っている社長や人事担当者の方は今すぐにでも就業規則の見直しを、起業予定で最初から社員を雇用する起業家の皆さまは就業規則や雇用契約書を甘く考えずに、社員を雇用する前から社会保険労務士等の専門家に相談をすることをお勧めします!労務管理は最初に基準を決めておいておくのがポイントです。
社会保険労務士大石 諒
リスク予防型の就業規則作成が得意です。起業時にはネットで探した就業規則を利用するのも一つの手ですが、その就業規則等で労使トラブルが発生した場合に会社を守れますか?御社の実態に沿ったオーダーメイドのリスク予防型の就業規則は、未払い残業問題等のあらゆるリスク回避を実現します。